書評

[論説の解き方] Go Toキャンペーンの東京除外は結果オーライ

Pyramid Principle

2020年7月17日現在、GO TOキャンペーンについては実施/非実施の議論が盛んに実施されています。

私がTwitterでフォローしている “ちきりん” 氏と高橋洋一先生でも、非実施(高橋先生)/実施(ちきりん氏)と見解が異なります。

これはPyramid Pricipleという技法の適用例に向いているので、両者の説明内容を比較分析させて頂くことにします。

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ちきりん氏

まず効率的なコミュニケーションでは、タイトル(題名)はテーマ&結論とするのが良いです。残念ながら彼女の場合は、「Go Toキャンペーンについて」となっています。テーマだけで終わっています。

冒頭部分では、”今回のGo Toキャンペーンを巡る混乱については「12歳の私だと理解できないかな?」と思えることも多いので、いくつか説明しておきたいと思います。” と説明しています。

そして12歳の自分が理解できないと思われることを、全7章構成で説明しています。

  1. なぜ今、こんなキャンペーンをするのか? もっと後でいいのでは?
  2. Go Toキャンペーンではなく、旅館や観光施設など観光業者に直接、補助金を払えばよいのではないか?
  3. 旅行なんて時間とお金に余裕のある人しかできない。なぜそんな人の旅行代金を税金で支援する必要があるのか?
  4. 東京だけ除外しても意味がないのでは? 神奈川や千葉、埼玉の人も、多くが東京への通勤のはず
  5. なぜ「キャンペーンに反対」に人がこんなに多いの? 賛成の人だって、もっといるのでは?
  6. そもそもなぜ観光業界にはここまでの政治力があるのか?
  7. 東京の人がいちばんたくさん税金を払っているのに、東京の人だけ除外なんて不公平では?

とりあえず「12歳の私がGo Toキャンペーンで不思議に思うこと」を網羅していればOKなのですが、これでダブリがないことはともかく、漏れがないことは誰がどうやってチェックできるでしょうか。

ちきりん氏だけが分かれば良いということなら、その時点で他人への説得力はなくなってしまいます。また理想的にはMECE(Mutual Exlusive Collective Exhaustive:漏れなくダブリなく)です。

一枚一枚に切られたカマボコだったら、一つの完全な板付きカマボコになってくれないと論理に欠如が生じているということになってしまいます。

また第5章「なぜ「キャンペーンに反対」に人がこんなに多いの? 賛成の人だって、もっといるのでは?」では実施の是非も論じています。そうであれば、実施の是非(安全性や経済効果)を論じることまで必要となるでしょう。

ちなみに残念ながら彼女は医学の素人であり、またデータを元に分析することもやっていません。こちらが説明の範囲外となりますが、彼女のコメント(2020年7月10日時点)です。

これは各所で実施された抗体検査の結果から、おおよその感染者を推定することができます。調査不足です。

こう言っては何ですけれども、彼女は「社会派ブロガー」なのだそうです。収益は不特定多数へ展開して、一人一人から薄くスポンサー広告費を貰うか、市販本の印税です。

だから間違った主張をしても、別に誰も深刻に困ることはありません。「社会派ブロガー」は、興味ある人の好奇心を満たせれば十分なのですから。

個々の主張に関しても、ツッコミどころが満載です。

  • 観光業が、今後の日本の基幹産業の一つとなっていく -> 根拠は?(米中衝突でメーカーの国内回帰とかは期待してはダメ?)
  • 農業は期待できない -> 同上 + 観光での農作物消費は?
  • 産業の基盤を消失… -> 先ほどは「今後」だけど「既に」? 都市/ネットのイベントではダメ?
  • 補助金では売上維持(会社存続)できない -> 売上は対外評価の指標に過ぎませんよ?
  • Go Toで高齢者に旅行へ行って貰う -> 私の周囲は「Go Toでも行かない」だけど、バンバン旅行へ行くの?
  • 通勤などを考慮すると東京だけ除外するのはPR目的に過ぎない。 -> いや、感染者の住所の大半が都内です。だから関係者は都内か首都圏の非常事態宣言の是非を検討しました。

結局のところ彼女の主張を纏めると、「日本では東京も含めてGo Toキャンペーンをやっても持ち堪えることが出来そうに想像できるので、経済の観点で直ちにGo Toキャンペーンを推進しよう!」ということになります。

彼女のファンは良いかもしれませんけど、これでは政治や経済を動かす者が彼女へ相談することはないでしょう。

ちなみにツイッターの発言に関しては、下記の記事の0.1%という数字があります。東京都民が1,000万人だったら、第一波で1万人が感染したということです。だとすると、1日1,000人の新規感染者では多過ぎますね。

高橋洋一先生

こちらのタイトルは、「コロナ感染どこまで増える? 第1波並みの拡大に警戒を 地域限定の休業要請実施も」となっています。何が言いたいのか、すぐに分かります。

まずタイトルを目にすると、「コロナ感染どこまで増える? 第1波並みの拡大に警戒を」ということの根拠説明が欲しくなります。

それに対して彼は、きちんと数字で説明しています。

  • 第一波の1日あたり:新規感染者2桁-100人後半、検査300件、陽性率10-30%
  • 現在:新規感染者100-200人、検査数2,600件、陽性率6%

で、これだけでは感染拡大の根拠は弱いとし、6月には1,500-2000件の検査で陽性率1-2%だと追記しています。だから感染拡大しているとのことです。

そして第一波が自粛措置の影響ではないと主張する人向けには、「だったらどうして感染拡大となったの?」と根拠説明を求めています。

未知の状態でワクチンや薬も開発途上なのだから最悪回避のための安全策を取って、休業補償を検討することを勧めています。つまりGO TOは非実施を提案している訳です。

そして次のステップとして、自粛対策として休業補償の検討を提案しています。

実際に旅行してみると分かりますが、旅行すると交通費・宿泊費に加えて、レジャー施設や飲食代などが発生します。だから観光業向け補助金ではなく、休業した企業or人に対して休業補償することを提案する訳です。

このように説明されるとGO TOキャンペーン実施時のリスクを考える必要は無くなり、「果たして休業補償で経済を維持できるか?」ということだけに論点が集約される訳です。

もちろん経済は「株価」で分かるように人間の感情が多分に影響します。休業補償のおかげで倒産しなくても、会社を維持しようという気持ちが折れてしまったら問題です。

できればちきりん氏のように観察力や空気を読むのに優れた方には、ぜひこの辺りを論じて貰えると嬉しいと考えるのは、私だけでしょうか。

そうそう説明内容とは関係しませんが、高橋洋一先生は政治関係者からの相談に有償/無償で対応しています。彼は大学教授という職業だけでなく、政策アドバイスも収益源としている訳です。(稀に安倍首相から電話を貰うこともあるとか)

つまり発言内容が政策決定者にとり、納得できるものである必要がある訳です。メディアへ記事を寄稿したとしても、私のような者(Webサイトへのアクセス数が重要なブロガー)とは立ち位置が異なるのです。

まとめ

以上の通りで、二人とも興味深い論考を提供して下さっています。そういったものを比較すると、何をどう考えると良いのか参考になります。

なおちきりん氏は売上を重視していましたが、たしかに売上は重要です。それはバランスシートで見た時に、会社は借金をして会社運営することが必要であり、その借金には「売上」が貸付許可基準となるからです。

たとえ赤字であっても、原価を縮小できれば黒字化は可能です。だから利益だけでなく、売上も重要な経営指標となります。

これは実は、高橋先生が詳しいです。

なお問題となるのは、観光業はバランスシート以外でも売上が重要である点です。

豪華客船で考えて見ると、施設とスタッフ以外にも、燃料や食料が必要となります。また先の述べたような、「旅行のおみやげや飲食物(レストラン等)」も出て来ます。つまり他の産業にも影響する訳です。

それで確かに指摘されるように、補助金では不十分となります。だから行き着く先としては、企業や人の「休業補償」となる訳なのです。

さてこれから何がどう展開されるか。とりあえず東京都はGO TOキャンペーンの対象外になったので、まずは一安心というところです。

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成:四葉静