ノートは、単なる道具です。
「えっ? 昔から手段を目的にした人が、今更まともなことを言うのですか?」と、切り返されてしまうかもしれません。
たしかに私の部屋には、A4サイズの超大型Bostonノートやケンブリッジノートから、モレスキンのExtra Smallサイズまで勢揃いしています。
しかしノートや筆記具というものは、実際に使ってみないと分からない部分があるのです。「百聞は一見に如かず」です。
そうやって達人への道を極めると、今度は他人がノートを使う時の様子から、その人が何を考えているのか分かるようになって来ます。
今回は私のような “ビョーキな人” が山ほど働いているというウワサの、コンサルティング会社マッキンゼーの社員さんたちのノート術を紹介させて頂くことにしましょう。
マッキンゼーのノートは3種類
どんなに正確に理解しようと頑張っても、一人の説明を聞いただけでは勘違いの生じる危険があります。
そこで今回は、数名の「元マッキンゼー社員さんたちの本」を参考にさせて頂きました。
主な参考としたのは、この4冊です。
特に最初の大嶋祥誉さんの本は、大変参考になりました。
今まで何種類も存在するように見えていたのですが、実は皆さん3種類のノートを使い分けていたのですね。さすがは世界トップのコンサルティング会社です。
それでは本で紹介されていた順とは “逆” に、ノートの種類を紹介させて頂くことにしましょう。
ヒヤリング用ノート
どこの世界でもそうですけど、本当に「百聞は一見に如かず」です。直接入手する一次情報は、大変に重要です。
二次情報(誰かを経由して入って来る情報)の場合には、慣れ親しんだ人の記事でもない限り、その情報を注意して取り扱う必要があります。
それに嗜みのあるマッキンゼー社員だと、忙しいお客様(クライアント)に対して、何度もヒヤリングの時間を割いて頂く訳には行きません。
それでマッキンゼーとしては、特に社外で情報収集するような場合には、ヒヤリング用(情報収集用)のノートを使うのだそうです。
具体的には元BCC日本支社長だった堀紘一さんも使用したことのある、ケンブリッジノート(極東ノート)が採用されているとのことです。
ケンブリッジノートのサイズはA4版とB5版が存在するのですが、マッキンゼーではA4版が採用されています。本にはサイズが記述されていませんが、実際に購入することで判明しました。
A4版の方が表紙の上部に飾りがあるし、下部には名前など書き込むためのアンダーラインが2本引かれています。まさに本で紹介されている通りのノートです。
このノートは実際に使ってみると体感できるのですが、どこでもメモを取ることが出来ます。著者の大嶋さんの先輩には、腱鞘炎になるほどメモを取った方もいらっしゃるそうです。
ハードカバーの表紙なので、下敷きは不要です。おまけにリング式の綴じ方なので、半分に折って使うことができます。特にB5版は、持ち運びが簡単です。本の少しでも小さい方が、カバンから出し入れするのが容易なんです。
私も先日は一時的ですけど、疲労で腕が動かなくなるまで、メモを取る機会がありました。このように極限まで力を使う時には、わずかな違いが大きな違いとなって表われます。順位の付く世界だと、1位と2位は全く違います。
普通の会社では、備品棚に収納されているのは大学ノート程度でしょう。それを1位を取れるならばノート代くらいは大した影響がないと割り切るマッキンゼーという会社は、やはり “抜きん出た存在” と言えるかと思います。
(それにお客様から見て、大学ノートを使ってヒヤリングされたらば「ちょっと…」と思われてしまうかもしれません)
思考用ノート
この世界は物理法則に支配されており、マッキンゼーの社員も例外ではありません。ただし彼らの行動や言動を司るのは、”思考” です。
顧客(クライアント)から依頼されたコンサルティング業務も、つまるところはマッキンゼー社員の “思考” によって実行されるという訳です。だからこの思考をどのように形成するかは、コンサルタントにとっては生命線となるのです。
その生命線をコントロールするのに、彼らは独自の「思考用ノート」を使用します。興味深いことに、このノートにはフォーマットが存在しません。
「方眼ノートを使う」… ただ、それだけです。
「思考整理に使う」とコメントなさっている方も多いですが、どうも少し違うようです。もちろん思考整理にも使うのですが、それ以外でも使っているのは明らかです。
そもそも思考用ノートというのは、先ほどの本で使われていた用語です。そこからして、違和感があります。
だって思考整理が目的ならば、「思考整理ノート」と表現した方がマッキンゼーらしいでしょう。またロジカルシンキングの赤羽雄二さんも、「深く悩まずに1分程度で書き出す」と説明しています。
つまりこれは、まず頭の中に溜まっているデータを外部出力して、それを加工(思考)しようと試みている訳なのです。だから「思考ノート」なんです。
ちなみに私の場合は、こちらの記事で紹介したように、A4サイズのノートは使っていません。A5サイズの方眼レポート用紙を使っています。
実はこのノートが、今回紹介している3種類のノートの中では、最重要アイテムとなります。アイデアを生み出して分析して説明内容を決めないと、何も変化は生じません。
どんなに有益なヒヤリングをしても、思考段階で迷走してしまったら、お客様(顧客)の求める回答を提供することは出来ません。次に紹介するマッキンノートを使い、説明/提案内容を作成するも出来ないです。
そういう意味で赤羽雄二さんのマンガ本は興味深いです。マンガが多いので物足りなさを感じるかもしれませんが、実はその内容だけでもマスター出来れば、恐ろしくアウトプットを向上させることが可能なのです。
実は大嶋さんがコメントしている「ブレット(箇条書き)形式で「事実」をノートに書き込んでいたYさん」は、自分の頭の中にある「事実」もノートに書き出しているのです。赤羽さんが主張する、「ともかく4-6行で箇条書き」と同じことを意味しているのです。
赤羽さんも大嶋さんも詳しく説明していませんでしたけど、「意識的な思考」というのは声のように、順々に流れていきます。だからブレット・メモが有効なのです。
先に申し上げた通り、私はA5版です。どのようなノートや筆記具を採用するかは、成果にも大きく影響する重要要素です。状況に応じて使い分けるというのも一案です。
ぜひ「あなたにとっての最適解」を見出して頂けると嬉しいです。
マッキンノート
最後に登場するのが “マッキンノート” です。
これはノートという名称を持ちながらも、正体は方眼のレポート用紙です。
ただし Pyramid Principle に基づいて考案された過去を持つため、上側にはタイトル欄とイシュー欄が存在し、下側には出典欄 (Source) が存在します。
これは1枚あたり1チャート/1メッセージという原則があります。人間は同時に2つのことを考えるのは無理なので、1チャート/1メッセージには説得力があります。
そして実は最も最初に作成すべきノート書き込みは、このマッキンノートとなります。たしかにお客様の相談内容への回答でないと、お客様にコンサルテーション結果を納得して頂くのは難しいです。
そこでこの “マッキンノート” を完成させるために、マッキンゼー社員は思考ノートを使い、さらに思考ノートのネタとしてヒヤリングノートを使うのです。
今回は少しずつ慣れて頂くためにマッキンノートを最後に紹介しましたが、実は依頼後に最初に扱うことがポイントです。
そうそう、マッキンノートのサイズはA4横がベストになります。無理にA4サイズに拘る必要はありませんが、情報量的にもA4程度がベストだと経験が物語っています。
その他
さてマッキンゼーのノートは、基本的に3種類だと説明しました。
しかし上級者には、少しアレンジしている方も存在します。
例えばモレスキンノートのポケットサイズ版を利用している人がいました。
また大前研一さんは、A2サイズの方眼ノートを作成しました。
このノートを左下から右上に向けて、思考ノートのようにゼロ秒思考で思いついたことを埋めて行ったのだそうです。
これは論理的思考では捉えられないことをキャッチして、イノベーション生成するために使うのだそうです。なんとなくシンゴジラに登場した某教授を思い出します。
何かを生み出すために、そのためのプロセスを実行する必要があります。
まだ私はここまで追い詰められたことはありませんが、機会があれば是非使ってみたいです。
まとめ
今回は以上です。
何冊もの本に目を通してみると、マッキンゼーを貫く基本原則が見えて来ます。
“So What? (だから何)” のように秀逸なComplication(含意)を使ってみるのも良いでしょう。
ともかく大切なのは、頭を動かし続けることです。そうすれば、マッキンゼーのノート術から目指すところが分かったりもします。
それでは、今日はこの辺で。
ではまた。