麻布の野田岩「生涯うなぎ職人」が理想とする蒲焼

鰻屋の野田岩の五代目

野田岩は新人採用して職人を育てたりしており、かなり特殊なお店です。

いつも予め十分に蒸しの入ったウナギに遭遇すると紹介していましたが、こちらの本によると1時間近くも蒸しているのだそうです。

残念ながら今年は本店のある東京タワー近くや銀座に行く予定がないのですが、おかげで五代目「野田岩」が分かって来ました。

また五代目が五代目なら、朝8時に出前を10日連続で注文するお得意さんとか、客の心意気も見事です。

別なブログで本の紹介をさせて頂きましたけど、そこでは語らなかったことを語らせて頂くことにしましょう。

10日連続の朝8時

やっぱりこの話が最も印象的です。

五代目の金本兼次郎氏は「時間通り」であることの重要性を語る例として紹介していますけど、そもそも朝8時に10日連続で注文する客もスゴいです。

誰が注文したかは本で紹介されています。ともかく注文の目的は、「能の稽古を始める前に食べたい」とのことです。

これ、最近は奥さんの負担を減らすために冷凍ウナギを常備するようにして思ったのですが、お客さんも見事な人ですね。

決して我がままとか気まぐれで言っている訳じゃないのです。全力で頑張り通すためには、それに耐えられる腹ごしらえをする必要があるとの発想です。

少年ジャンプのBleachというマンガで「修行の前に腹いっぱい食べる」という場面がありましたけど、まさに同じアプローチです。

「キツい修行なんてのは、体作った先にあるもんだろうがよ」

やはり一流の人は、準備も一流だということでしょうか。そういえば私もうなぎは無理だけれども、DHAやEPAが豊富なサンマ蒲焼の缶詰を食べていることを思い出しました。

もちろん雪の日も朝8時に届けていたのだから、五代目も大したものです。「作る人も人、食べる人も人」といったところでしょうか。

職人技

社員を大切にする野田岩ですが、仕事の要求水準が厳しいです。まず野田岩に相当する職人技を披露する店が少ないと指摘しています。

大抵の場合は、「美味しいと聞いていたが、やっぱりこの程度か」とがっかりするのだそうです。

“焦げたうなぎが駄目なのは言うまでもありませんし、色がくすんで蒲焼本来の輝きがないものがほとんどです。くすみは照りを出す味醂が足りないからです。一口食べて、さらにがっかりです。火の通し方が悪くて皮目に嫌な脂が残っていたり、蒸しが足りないせいで口当たりが悪かったり。まともな仕事がなされていません。”

当たり前のように聞こえるかもしれませんけど、私も幾つか食べ歩きをしたら、その通りだと分かって来ました。それから五代目、「また、最近多いのは、ご飯にかけるたれを別に用意している店です。」ともコメントしています。

まあタレをテーブルに出すかどうかは鰻屋の経営方針かもしれませんけど、野田岩以外では八十八の横浜NEWoman店でしか、たれが出ない経験をしたことがありません。

(そういや私も自宅でタレを出していますね)

ちなみに野田屋では、野田屋調理師紹介所には職人派遣を依頼しない方針だそうです。少し気を抜くと野田屋の作り方でなく、職人独自の調理方法になってしまうのだそうです。なかなか難しいです。

1Fと3Fで変わる焼き方

東京タワー近くにある野田岩本店では、1Fと3Fの客で蒲焼の焼き方が異なるのだそうです。なんでも3Fまでは配膳に時間がかかるから、その分だけ熱めに調理するだそうです。

最近は「蒸し」のために重箱に入れたご飯を電子レンジでチンしていますが、たしかにその通りだと実感させられます。

そういえば同じくミシュランの星一つを獲得した横浜「しま村」は、うなぎはアツアツでご飯は少し冷ましてあります。これ、日吉本店でも青葉台店でも、全く同じ熱さと温度差です。

それで鰻屋というのは蒲焼だけアツアツにするのかと思い込んでいたら、野田岩は同じくらいの熱さになっていました。おそらく「しま村」が独特なので、今度機会があったら理由を尋ねてみたいです。

そういえば「しま村」といえば、あちらはデザートが付きます。野田岩はキャビアも付くのが、なかなか興味深いです。

(どちらのお店も白ワインがあるのは嬉しいです。辛口の白と甘口の鰻重は良く似合う気がしますので)

ただし職人技に話が戻ってしまいますが、「このうなぎはダメだから捨てる」と判断できるのは五代目しかいないそうです。これは横浜高島屋でも嘆いているお客さんがいましたけど、五代目にとっても悩みだそうです。

(今の私なら、満足できないと「満足できない」と言ってしまいそうです。気をつけましょう)

そういえば野田岩のお茶の淹れ方も見事だと思います。横浜高島屋の野田岩にしか行ったことがありませんけど、最初に一杯目は玉露の一煎目でした。二杯目は二煎目か三煎目でしたけど、生まれて初めて外出先で玉露を飲みました。

ここら辺は、本当に工夫しているようで興味深いです。

自信の真空パック

そういえば真空パックは、静岡で焼かれています。(本によると、タレは野田岩のタレを使用しているとのこと)

この静岡で生産されている真空パックのウナギを焼く工程には、五代目も自ら何度も足を運んだとのことです。他社の作り置きウナギに対して、相当な自信を持っているとのことです。

ちなみに五代目の弟さんがブラインドテストのような感じで食べて、美味しいと感じたとのことです。たしかに焼き立てには敵いませんけど、同じ作り置きであれば大変高品質です。

そういえば本日も、近所のスーパーの真空パックをチェックしている人を見かけたとのことです。2020年は、年間売上5億円を軽く突破するのではないでしょうか。

まとめ

別ブログで言い切れなかったことを言わせて頂きましたが、まだまだ本には興味深い話が山ほどあります。

友人にも言いましたけど、これは手元に持っているのが良さそうに思えます。

残念ながら重版がないので、古書を数冊購入しておいても良いかもしれません。

それと出来れば、ぜひ五代目に一度お話を伺ってみたいです。

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成:遊川学