たとえ野田岩の職人であっても、良質なウナギが必要

吉田町の鰻の蒲焼

この店をご存知の方は少ないでしょう。子供の運動不足解消のため、隣町の鰻屋まで散歩しました。

冒頭画像は、その時に撮影したものです。

子供には、「夕飯前の散歩なのに香りだけとはヒドイ!」とか、「実は食べて帰りたかった」とか、散々文句を言われてしまいました。

その罪滅ぼしは今後の話として、今回は鰻屋のウナギ調達方法について語ってみたいと思います。

静岡吉田町のうなぎ

うなぎ好きの方はご存知の通り、現在の静岡では貴重な良質うなぎ産地として有名な吉田町です。

散歩した店では、吉田町のうなぎを扱っています。

入手した情報では、蒸すものの関西風に近いとのことです。冷凍ウナギで有名な「しろむら」とか川口水産は関西風と関東風の中間的な焼き方ですが、こちらの鰻屋も同じです。

ご飯にかけるタレは川口水産に近いけれども、もう少しウナギの旨味が入っています。

この道50年のご主人と奥様による家族経営で、近所では人気のお店です。

ちょうど子供と行った時も、若い男女が入店していました。若さも羨ましいですが、その若さで鰻屋へ入ることのできる経済力も羨ましいです。

(私は経済観念がなく、単に散財しているだけ…トホホ)

それはさておき、静岡吉田町とは良質のウナギを扱っています。個人経営というのは職人のこだわりが出てしまうので、我が家の奥さまは敬遠しています。

しかし良質なウナギは正義です。何となく評判通りの味を期待できそうです。

ちなみに我が家で最高評価の藤沢みのるは、基本的に三河一色産とのことです。現在は営業していない瀬谷の池田も三河一色産であり、取引先業者を決めています。やっぱり三河一色産は人気ですね。

問屋と鰻屋

さて改めて考えて見ると、うなぎの蒲焼も魚に過ぎません。したがって鰻屋は産地直送か、仲買人(問屋)から仕入れることになります。

良質のうなぎを仕入れるのは大変であり、このあたりは野田岩五代目の金本兼次郎氏も苦労なさっています。(同時に、それが醍醐味であるとも)

うなぎも投機対象になったり、なかなか大変のようです。

そういう苦労を経験した後、問屋に加えて鰻屋も始めたのが横浜「しま村」です。うなぎ職人は野田屋調理師紹介所から派遣された人が仕事しているだそうです。東急百貨店たまプラーザ店や日吉アベニュー店では「お持ち帰りうなぎの蒲焼」を販売しています。

私はズブの素人ですけど、しま村のウナギの蒲焼は見ていてキレイです。焦げも無い鮮やかなキツネ色で、ウナギの蒲焼に対するイメージが一新した程です。

金本氏が自伝で説明しているところでは、良質でない養殖うなぎは焦げやすい等の問題が起こりがちとのことです。しま村や野田岩は、良質のうなぎを仕入れているように見えます。

(もちろん吉田町のウナギも)

それにしてもウナギも商売なので、私の会社仕事とも共通点が多いです。自分だけが利益を独り占めしようとすると、エコシステムが回らなくなります。

一方であまりに気弱だと、その気弱なところで軽く見られてしまいます。鰻屋と問屋の関係も同じだそうです。

対等の関係で、持ちつ持たれつの関係が良いとのこと。さすが一芸に秀でた人は、他のことにも精通しているようです。

若い職人さんと勉強のために相手先へ連れていることもあるとのことで、私も技術者を管理する立場にいた時には真似したら良かったなあと、今更ながらに感じます。

それにしても金本氏の本は勉強になります。戦後は食糧難で農家の立場が強い時期がありましたけど、彼も同じ経験をしたとのことです。

「お前ら、東京もんはかわいそうだな。食べるものもろくにないんだろう。飯の一杯でも御馳走してやらんとならんかな」と言われたとのこと。私も父から同じ言われ方をされたことがあると聞かされました。昔はそうだったんですね。

そういえば鰻屋は、米にも拘っていますね。しま村は季節に応じて最適な仕入れ先を選択し、野田岩は山形の特定業者から仕入れているとのことです。

そうやって考えると、何も考えずにお米を食べている自分がふがいなくなって来ます。

ちなみに私は放っておくと、近所のスーパーで「あきたこまち」を買ってしまう人です。奥さんには文句を言われることが多いです。(彼女はキチンと、お米にも拘っている)

そしてうなぎで避けて通れない問題として、天然うなぎがあります。しま村も野田岩も看板に掲げるほど拘っていますが、私は財布の都合で食べた経験を持ちません。

これは悲しいことです。養殖は柔らかくて短時間で焼き上がる反面、焦げやすい等の問題点を抱えているのだそうです。

また香りも味も全然違うそうで、特に志ら焼(白焼き)で差が出るとのこと。(なんか、かすかな記憶だけれども、一度だけ食べたことがあるような…)

そして天然うなぎの場合、問屋さんも苦労することになるのですね。

昔は冬は田んぼに囲っていたとか、なかなか勉強になります。また最近の養殖うなぎは「カステラのようにフワフワ」というのも興味深いです。

興味深いといえば、東急百貨店たまプラーザの「しま村」も興味深いです。

焼き方は焦げ目のない綺麗なキツネ色だけれども、高めの価格設定なのか行列になっていませんでした。(2020年8月15日)

意味もなく値段を釣り上げているのではなく、良いものだと分かる人だけに売れれば良いと考えているような気もします。ここら辺の価格戦略も、なかなか興味深いです。

まとめ

やはり職人の腕は重要ですけれども、同時にウナギそのものも重要です。

何かが欠けていても、満足できるものにはならない… やっぱり奥が深いです。

ワインだとロマネ・コンティを「ビロードのパンツをはいた小さなキリストが歩いている」と表現したソムリエがいるそうですが、果たして天然うなぎはどのようなものでしょうか。

(五代目の「養殖ウナギはカステラのようにフワフワ」も、なるほどと感心する表現です)

さてそれにしても肝心な先立つものがないと、天然うなぎを試すことが出来ません。仕事、さらに精進するようにしましょう。

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成:遊川学