試みにショートショートを書いてみました。
(実話じゃありませんよ。我が家とは全く関係ありません!)
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「お父さん、なんとかして下さい」
ある日、エス氏は妻から文句をいわれた。
「あの子ったら、今日は国語のドリルを忘れて学校へ行ったんです。家を出るまでの間、何度も忘れないように注意したのに」
「それは困ったね」
たしかにエス氏の子供は、忘れ物が多い。学校の通信簿にも、そのことが書かれていた。忘れ物のない日が7日ほど続いた時は、お祝いにウナギの蒲焼を出前したほどだ。
「あなたの開発中のロボットに、忘れ物をしないように教育する機能を付けることは出来ないの」
エス氏が開発しているロボットは実用化が進み、人間と同じようなことができるようになっていた。もちろん彼の妻と同じように、子供も注意させる機能を取り付けることは出来るだろう。
「しかし君と同じことをやってもらうことは可能だけど、それは君が楽になるだけに過ぎないぞ」
「それでも構いません。もうあの子に宿題や学校の教材を忘れないように指導するのには疲れました」
何やらエス氏の妻は、そうとうストレスがたまっているようだ。
やれやれ仕方がない、エスはあきらめた。
「分かった。子供の忘れ物の件は、ぼくが何とかしよう。ただし10日ほど時間をくれないか」
「わかりました」
二人の会話は、そこで終わった。
そして10日ほど過ぎた時、子供は忘れ物をすることが殆どなくなった。学校の先生からも、大変に感心したとの連絡があった。
「あなたのロボット、さすがね」
エス氏の妻はごきげんになって、そういった。
「いや、そんなことはないさ」
しかしエス氏の返事は、あまり楽しそうではなかった。実際、彼は心の中では、ため息をついていた。
「いったい、どんなプログラムをしたの。私にも使えるかしら」
そら来た… エス氏は覚悟を決めた。
「いや、君は大丈夫だ。ロボットなんか必要ないさ」
「どうしても知りたいの」
やれやれ、予想した通りだと、エス氏は思った。
「実はね、ロボットには君の真似をさせて欲しいと頼んだのさ」
「それってどういう…」
「つまりそういう訳さ」
エス氏は説明を続けた。
「大切なのは忘れものをしないことではなくて、忘れものがないかをチェックすることさ。君はマメにメモを取って、外出前には忘れものがないかをチェックしている。それと同じことができれば良いんだ」
エス氏の妻は茫然としていた。
「学校への持ち物を忘れないようにするには、学校配布のメモ帳を確認して、さらに忘れものチェックリストで確認すれば殆ど問題はなくなる。あとは当日のイメージトレーニングをすれば、足りないものがあるかをチェックできるだろう」
「それだけなの」
「ああ、しかし副作用がある」
一週間後、たしかにエス氏の家庭は雰囲気が変わってきた。
子供がしっかりとメモを取り、学校の忘れものがないかをチェックしている。しかしそれだけはなく、いろいろなことを指摘し始めた。
これがエス氏の恐れた事態だった。まるで妻が二人になったような感じである。
つまり子供は忘れものしないだけでなく、エス氏や彼の妻にとって不都合なことを忘れなくなってしまったのだ。たとえば、エス氏が財布を落としたこととか、昨年ケーキを食べた回数を記録している。
そして機会があると、そのことに言及してくる。
「人間、少しくらい欠点があっても愛嬌というものさ」
エス氏は、そうつぶやいた。
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記事作成:よつばせい